研究内容
香川大学医学部眼科学講座の主な研究に関するご紹介。
黄斑疾患に関する臨床研究 (逢坂理恵)
中高年の失明原因の1位は緑内障、2位 糖尿病網膜症、3位 網膜色素変性症ですが、加齢黄斑変性がそれに続きます。生活習慣の欧米化や寿命の延長に伴い、加齢黄斑変性の割合は年々増え、1998年の久山町スタディでは0.9%でしたが、2007年の同スタディでは1.3%と2倍に増加しており、急速に進んでいる超高齢化社会により有病率の更なる増加が考えられます。加齢黄斑変性は大きく萎縮型と滲出型の2種類に分けられますが、どちらも視力低下をきたす疾患であり、病態の解明と治療の確立は重要な課題となっています。
当院では、水曜・金曜に黄斑専門外来を行っており、日常診療に必要な検査に加えて、OxymapやLaser Speckle Flowgraphy (LSFG)を用いて初診時や治療前後の循環動態の変化について調査しています。また、近年トピックスとなっているPachychoroidを伴う加齢黄斑変性や中心性漿液性脈絡網膜症において、疾患特性や脈絡膜の形態学的な特徴をOCTやOCTA、蛍光眼底造影検査所見を含め調査しているところです。
また、黄斑部毛細血管拡張症や網膜色素変性、黄斑ジストロフィーなどの黄斑変性疾患についても診療を行っており、研究テーマとして長期的にすべての患者さんのフォローを行い、病態解明・予後予測に繋げようと研究しております。
CLINICAL FEATURES OF TREATED AND UNTREATED TYPE 1 IDIOPATHIC MACULAR TELANGIECTASIA WITHOUT THE OCCURRENCE OF SECONDARY CHOROIDAL NEOVASCULARIZATION FOLLOWED FOR 2 YEARS IN JAPANESE PATIENTS
Purpose: To evaluate the clinical features of Type 1 idiopathic macular telangiectasia (IMT) followed up for 2 years.
Methods: Forty-nine patients with unilateral Type 1 IMT were examined. Thirty-one IMT eyes were treated with direct laser photocoagulation and/or intravitreal bevacizumab; the remaining 18 eyes, with good vision or slight macular edema, were untreated. Changes in best-corrected visual acuity and central retinal thickness between baseline and 24 months after the initial visit were examined.
Results: Of 49 eyes, nine were treated with direct laser photocoagulation, 12 with laser photocoagulation and intravitreal bevacizumab, 10 with intravitreal bevacizumab monotherapy, whereas 18 did not receive any treatment. The mean logarithm of the minimum angle of resolution best-corrected visual acuity was 0.20 ± 0.19 (median, 20/29) and 0.13 ± 0.22 (median, 20/25) at baseline and 24 months, respectively (P = 0.023). The mean central retinal thickness was 375.0 ± 94.5 μm and 315.3 ± 78.5 μm at baseline and 24 months, respectively (P < 0.001). Retinal vein occlusion and retinal macroaneurysm occurred in six eyes and one eye, respectively, during follow-up.
Conclusion: Treatment with laser photocoagulation and/or intravitreal bevacizumab may be effective for Type 1 IMT, 36.7% of IMT eyes required no treatment over a 2-year follow-up, and other retinal vascular events were not uncommon.
裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術前後での網膜血流、網膜酸素飽和度 (上乃 功)
裂孔原性網膜剥離(rhegmatogenous retinal detachment:RRD)は人口1万人当たり年間1-1.5人と、0.01-0.015%の非常に低い発症率ですが、特に、近視で網膜格子状変性(lattice degeneration)があり、後部硝子体剥離(posterior vitreous detachment:PVD)に伴う馬蹄形裂孔のピークは50歳代にあり、働き盛りの頃に長期療養を余儀なくされ、片眼の視力低下に至る可能性のある疾患です。黄斑部に剥離が及ぶと視力低下や変視症を生じ、視力予後は不良です。そのため、今まで報告のある70歳以上の高齢、10mmHgより低い低眼圧、-5D以上の屈折異常、多発裂孔、巨大裂孔、3象限以上の網膜剥離範囲、黄斑オフ、シリコンオイル使用、術前の平均網膜中心網膜厚、術後の平均網膜中心網膜厚 術後ellipsoid zoneの形態、剥離の高さ、症状の持続時間、黄斑円孔の存在、網膜上膜の存在、以外にも、視力予後に関与する要因があるのではと考えています。網膜の血流の状態、網膜の動脈の酸素飽和度、網膜の静脈の酸素飽和度を、硝子体手術前後で検討することが、網膜剥離の視力予後評価に繋がっていけばと考え研究を行っています。
糖尿病黄斑浮腫に対する血管内皮増殖因子阻害薬硝子体注射治療中の網膜酸素飽和度と網膜血流の変化 (小山雄太)
糖尿病網膜症では、虚血網膜から血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)が産生され、血管透過性亢進・血管拡張を生じ、黄斑浮腫の形成に至る。VEGFを阻害することにより黄斑浮腫が軽減し、現在糖尿病黄斑浮腫(diabetic macular edema:DME)に対する標準治療となっている。近年、Oxymap T1(oxymap ehf社)により網膜酸素飽和度と網膜動静脈血管径を、Laser Speckle Flowgraphy(LSFG)により眼底血流分布を画像化し、簡便に測定・解析することが可能となった。現在、アフリベルセプト硝子体注射治療中の網膜酸素飽和度、網膜主幹動静脈血管径、網膜血流の変化についての研究を行っている。
これまでに、アフリベルセプト硝子体注射によって網膜血流が減少する可能性があること、DMEが改善することで網膜酸素消費量が増加する可能性があること、アフリベルセプトによる網膜酸素飽和度と網膜血流の変化が糖尿病網膜症の重症度によって異なる可能性があること、などを報告した。(2019年臨床眼科学会、2020年日本眼科学会など)
抗VEGF治療は経済的負担が比較的大きな治療であり、またDMEは難治性の症例もあり治療期間が長期に渡ることも少なくない。多数の、様々な経過の症例における網膜酸素飽和度や血流を比較・解析することで、治療期間、治療回数、視機能予後、抗VEGF治療反応性などを予測できる可能性がある。それらが予測できれば、抗VEGF治療、光凝固、硝子体手術などの治療方針の中から各々の症例に合った最良の治療方針が提案でき、治療期間の短縮や治療成績の向上が期待できると考えている。
網膜中心静脈閉塞症に対してOxymapT1とLaser speckle flow graphyを用いて、
抗VEGF薬投与前後の網膜血管酸素飽和度と網膜血流について検討する (三好由希子)
網膜中心静脈の閉塞は網膜循環に大きな影響をおよぼすといわれています。最近では抗VEGF薬の硝子体注射により網膜中心静脈閉塞症(CRVO)における網膜毛細血管無潅流の進行が減少することが示されています。
また、近年Oxymap T1(Oxymap ehf社)やLaser speckle flow graphy(LSFG)により、網膜酸素飽和度や網膜血流が測定可能となり、網膜循環、機能評価としての一助となっています。
網膜血流評価としては蛍光眼底造影検査が基本ですが、侵襲的な検査のため受診毎に検査を施行することはできません。OxymapやLSFGでは非侵襲的で比較的短時間で検査ができるため、実臨床として評価するのに非常に有用です。
現在当院では、CRVO症例で抗VEGF薬療法をおこなった症例に対しOxymapとLSFGを用いて網膜酸素飽和度と網膜血流を測定しています。
CRVOは3年で34%が非虚血型から、虚血型へ移行すると言われており、虚血型へ移行すると視力予後不良の疾患です。虚血型へ移行する前に、治療介入ができ、循環が保たれ、視機能が維持できることが理想です。
そこで、OxymapやLSFGで網膜循環動態を把握することにより、臨床所見に現れる前の段階で虚血型へ移行する傾向がないか研究しています。
そして将来的にCRVO症例の予後の予測や治療方針の決定に役立つようにしたいと考えています。
虚血型CRVOのLSFGの写真
緑内障手術前後の視神経乳頭血流の変化について (島崎武児)
我が国では40歳以上の約5%が緑内障に罹患しており、日本人における失明原因第1位の疾患です。我が国では眼圧が正常範囲である正常眼圧緑内障の有病率が高く、眼圧が低いにも関わらず視野障害の進行する症例が少なからずみられます。また緑内障は完治することがまれな、慢性の進行性の疾患ですので、進行が認められると治療を更に強化する必要があります。緑内障治療においては、新薬がいくつも開発され、内科的治療の選択肢が増えている一方で、外科的治療(手術)も、インプラント手術や低侵襲緑内障手術(MIGS)など、手術の選択肢も増えてきています。
近年、レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)の開発により、簡便に再現性良く眼血流の測定が可能となりました。このLSFGを利用した、眼血流と緑内障との関係が報告され、血流因子が注目されています。LSFGはレーザースペックル法を用いた眼底の血流指標を二次元マップとして測定できる画像解析法です。眼底血流を非侵襲的かつリアルタイムに観察することができます。血流速度の指標としては相対値としてmean blur rate(MBR)が用いられます。視神経乳頭血流においては全体の血流及び大血管領域と組織領域に分けてMBRを解析できます。
LSFGを利用して緑内障手術前後で視神経乳頭血流の変化を研究しています。緑内障手術には眼圧下降だけではなく、血流改善効果があるのではないか調査しております。
LSFGの眼底写真